記者解説 社会部・遠藤隆史
衆院選の投票所では人の名前が書かれた用紙が配られる。「やめさせた方がよいと思う裁判官については、その氏名の上の欄に×を書くこと」「やめさせなくてよいと思う裁判官については、何も書かないこと」と記されている。最高裁判所の国民審査だ。
最高裁は憲法によって設置された唯一かつ最上位の裁判所で、長官及び14人の判事で構成されている。「憲法の番人」とも呼ばれ、立法、行政、司法が監視しあう三権分立で重要な役目を担う。
国民審査は、最高裁の裁判官にふさわしいかを有権者がチェックする制度だ。就任後、初めての衆院選に合わせて行われる。×の割合(罷免(ひめん)率)が過半数になれば、その裁判官は辞めさせられる。
制度は敗戦後にいまの憲法を定める過程で盛り込まれた。当時の帝国議会では「裁判官が罷免をおそれて裁判の公正を害するようになる」などといった反対意見も出たが、GHQ(連合国軍総司令部)が導入を求めたとされる。
裁判官の強い権限に対し民主的なコントロールを担保するもので、国民の大事な権利だ。米国では裁判官を選挙で選ぶ州があるが、日本のような制度は世界的にも珍しいとみられる。
制度をめぐっては形骸化していると長年指摘されてきた。
ポイント
最高裁判所の裁判官の国民審査で「×」印を書く割合(罷免(ひめん)率)が高まっている。司法の独立を守りつつ、有権者の意思表明の手段として制度の活性化が求められる。裁判官の考え方や人柄といった判断の材料について、情報発信を充実させるべきだ。
第1回の審査があった194…